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RESARCH

ルミナコイド(LUMINACOID)

01.人類と常在菌との共生関係

02.シンバイオシスとデスバイオシス

03.食物繊維の歴史

04.食物繊維に変わる新しい概念の必要性

05.ルミナコイドの定義

06.ルミナコイド=プレバイオティクス

07.ルミナコイドの分類

08.主なルミナコイドの種類

09.ルミナコイドの課題

 

01.人類と常在菌との共生関係

私たちと共生し、私たちの美容と健康に大切な役割を果たしてくれているのが、多種多様な常在菌たちです。(ここでは、宿主である人間と共生する微生物を常在菌と呼びます。)彼らは、口腔・咽頭・呼吸器、泌尿生殖器、胃・腸などの「身体の内側」を含めたあらゆる体表面に、固有のバランスを保ちながら共生しています。

その多種多様な常在菌の集合体(マイクロバイオーム:microbiome)は、まるで植物が群生している「花畑(フローラ)」のようにみえることから、その部位毎に、肌フローラ、口腔フローラ、腸内フローラなどと言われるようになりました。​

人間の細胞は37.2兆個と言われていますが、数の上では我々の身体に共生している常在菌の数の方が圧倒的に多く、人間は「ヒトと常在菌が高度に絡み合った超生命体(スーパーオーガニズム:superorganism)」とも考えられています。

 

しかし、現代は、人間のおなかの中にいる常在菌が必要としている「食べ物」が、圧倒的に不足しています。​その「食べ物」とは、食物繊維などの難消化性・難吸収性の食物成分です。(日本食物繊維学会は、この食物成分を「ルミナコイド」と命名しました。)

宿主である私たち人間が消化・吸収できなかった食物成分を常在菌が食べ、私たちに有益な働きのあるものを産み出し、私たちを元気にさせることで、常在菌たちも健康で長生きできる。こういう好循環な共生関係が、人類と常在菌たちとの長い歴史の中で形作られてきたのです。

02.シンバイオシスとデスバイオシス

 

多種多様な常在菌たちが私たちのオナカの中で複雑に相互作用しながら一つの生態系を作り出しています。この生態系は、多数のネットワークの集合体とも考えられます。

常在菌が共存共栄している状態を「シンバイオシス:Symbiosis」、常在菌の多様性が無くなる、宿主に対し常在菌の共生が上手くできていない状態を「ディスバイオシス:Dysbiosis」と呼びます。

腸内常在菌のディスバイオシスと免疫、腸、神経、代謝など様々な領域の疾患と相関関係がある*(1)-(12)と言われています。つまり、私たちが健康でいられるためには、腸内常在菌が多様であることが最も大事だということです。

そして、このディスバイオシスの原因として、考えられるのが、抗生物質や過度なストレス、欧米型の食事、その他環境因子です。特に、欧米型の食事は、食物繊維などの難消化性食物成分が少なく、脂肪が多く含まれているため、腸内常在菌が産生する短鎖脂肪酸のもととなる難消化性・難吸収性の食物成分(ルミナコイド)が不足しています。

短鎖脂肪酸は、大腸のエネルギー源の95%をも占め、腸内の抗炎症作用を発揮し、病原体から腸管を防衛する働きがあるなど、とても重要な腸内常在菌の代謝物です。*(13)(14)

​03.食物繊維の歴史

 

古代ギリシャでは、既に小麦ふすま(小麦粒の表皮部分で食物繊維・鉄・カルシウムなどが豊富に含まれ、小麦ブランとも呼ばれる)の便秘予防効果が知られていました。
1930年代になり、小麦ふすまの便秘患者・大腸炎患者への有効性が確認され、心臓疾患・動脈硬化症の発症率と低脂肪食・高繊維食との相関性を明らかにした研究が行われました。
1950年代には、Dietary Fiber(食物繊維) という言葉が初めて使用され、1970年代では食物繊維の摂取量が少ないと大腸ガンの発生のリスクが高くなるとする「食物繊維仮説」が発表されました。また、食物繊維は、人間の栄養素ではないものの、その重要性から、第6の栄養素として食事摂取基準が定められ、食品成分表にも掲載されました。
そして、1990年代には「五訂日本食品標準成分表」に新たに「食物繊維」が独立して記載され、水溶解性(水溶性・不溶性)が明示されました。

04.食物繊維に変わる新しい概念の必要性

私たちの健康維持に重要な成分が含まれている食物繊維ですが、時代と共に難消化性糖類など様々な新素材が開発され、食物繊維定量(プロスキー法:酵素-重量法)だけではくくれなくなりました。

食物繊維の定義は、未だに国際的に統一されていません。米国では新しい食物繊維の定義に「functionalfiber」として難消化性オリゴ糖を加えていましたが、欧州連合では食物繊維を非デンプン性多糖類としていました。このように食物繊維の定義、さらには定量法も国によって異なり、 一概に食物繊維として比較することはできないのが現状です。*(15)

 

05.ルミナコイドの定義

一般社団法人日本食物繊維学会では、食物繊維様の生理機能を持つ難消化性成分を包括的にくくる用語として、「ルミナコイド(luminacoid)」を提唱しました。ルミナコイドは,食物繊維に代わる新しい概念です。「ヒトの小腸内で消化・吸収されにくく,消化管を介して健康の維持に役立つ生理作用を発現する食物成分」と定義しています。

ルミナコイドは,食物繊維の定義からはみ出す、難消化性・難吸収性の単糖、オリゴ糖、糖アルコール、更に、デンプン性の難消化性デンプン(レジスタントスターチ)や難消化性デキストリン、そして、タンパク質である難消化性タンパク質(レジスタントプロテイン)なども包括します。​

ルミナコイドは,「luminal(消化管腔内の)+accord(調和する)+oid(のような物質)」を組合せた造語です。腸内常在菌の餌となり、人間にとって有益な作用を生み出す食物成分を言い表しています。​

ルミナコイドは、1998年と1999年の日本食物繊維研究会学術集会において提案され、2000年11月の第6回学術集会において最終的に合意されました。*(16)

06.ルミナコイド=プレバイオティクス

ルミナコイドは、プレバイオティクス(Prebiotics)の概念に包含されると考えられています。

プレバイオティクスとは「大腸内の特定の細菌の増殖及び活性を選択的に変化させることにより、ヒト(宿主)に有利な影響を与え、ヒト(宿主)の健康を改善する難消化性食品成分」です。

プレバイオティクスは、有害な病原性細菌を抑制する抗生物質(antibiotics)に対して考案された用語で、1904年にGibsonとRoberfroidにより提唱されました。*(17)

 

07.ルミナコイドの分類


下の図は、ルミナコイドの分類をまとめたものです。従来の非デンプン性以外にデンプン性である難消化性デンプンと難消化性デキストリンが含まれます。

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ルミナコイド(発酵性の分類食物繊維)

[ ルミナコイドの分類 ]

​08.主なルミナコイドの種類

・ペクチン ※水溶性(soluble)と不溶性(insoluble)があり熟成すると水溶性になる

・βグルカン ※水溶性と不溶性がある

・グルコマンナン ※水溶性

・グアーガム分解物 ※水溶性

・アルギニン酸ナトリウム ※水溶性

・フコダイン ※水溶性

・イヌリン ※水溶性

・コンドロイチン ※水溶性

・セルロース ※不溶性

・ヘミセルロース ※不溶性

・リグニン ※不溶性

・ガラクタン ※不溶性

・難消化性デンプン(レジスタントスターチ)※不溶性ながら水溶性の特徴を持つ

・キチン ※不溶性 ※生成されたものは「キトサン」

・難消化性デキストリン ※水溶性

・ポリデキストロース ※水溶性

・難消化性オリゴ糖(フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマ ルトオリゴ糖)※水溶性

・糖アルコール(ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、ラクチトール、キシリトール、還元パラチノース、マンニトール)※水溶性

・サイリウムハスク ※水溶性と不溶性をバランスよく含有

・アラビノキシラン ※水溶性

・キサンタンガム ※水溶性

・アラビアガム ※水溶性

・グアーガム分解物 ※水溶性

・難消化性タンパク質(レジスタントプロティン)

・希少糖(D-タガトース、D-プシコース 、L-アラビノース)

​など

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09.ルミナコイドの課題

ルミナコイドの特性(分子量、分子構造、水溶解性など)や腸内細菌の種類の特性(嫌気度要求性、代謝能など)によってルミナコイドが届き、短鎖脂肪酸が産生される腸管部位が異なることが考えられます。

ちなみに、キチン及びキトサンは酸可溶性ですが、通常は不溶性食物繊維に分類されます。*(18)

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低分子成分のルミナコイド(オリゴ糖など)は、嫌気性要求度が低い菌種(ビフィズス菌など)により、小腸遠位部から大腸中位部にかけて、デンプン及び水溶性のルミナコイドは、嫌気性細菌により、大腸近位部から遠位部にかけて、 また不溶性のルミナコイドは、嫌気度要求性の高い菌種により、大腸中位部から遠位部にかけて、その多くが発酵・代謝されることが推測されます。

また、 代謝産物である短鎖脂肪酸の構成にも相違が認められます。

ルミナコイドが腸内フローラに与えるインパクトを高くするためには、このようにルミナコイドの発酵・代謝される腸管部位の分布が、ルミナコイドの特性や摂取量によって異なることを、十分考慮する必要があります。*(19)​

出典:

*(1) “Terminal restriction fragment length polymorphism analysis of the diversity of fecal microbiota in patients with ulcerative colitis.” Inflamm Bowel Dis 13: 955-962, 2007.

*(2) “Multicenter analysis of fecal microbiota profiles in Japanese patients with Crohn's disease.” Gastroenterol 47: 1298-1307, 2012.

*(3) “Microbial community analysis reveals high level phylogenetic alterations in the overall gastrointestinal microbiota of diarrhoea-predominant irritable bowel syndrome sufferers.” BMC Gastroenterol 9: 95, 2009.

*(4) “Luminal and mucosal- associated intestinal microbiota in patients with diarrhea- predominant irritable bowel syndrome.” Gut Pathog 2: 19, 2010.

*(5) “Microbial ecology: human gut microbes associated with obesity.” Nature 444: 1022-1023, 2006.

*(6) “Transfer of intestinal microbiota from lean donors increases insulin sensitivity in individuals with metabolic syndrome.” Gastroenterology 143: 913-916 e917, 2012.

*(7) “Dominant and diet- responsive groups of bacteria within the human colonic microbiota.” ISME J 5: 220-230, 2011.

*(8) “Delayed gut microbiota development in high-risk for asthma infants is temporarily modifiable by Lactobacillus supplementation.” Nat Commun 9: 707,2018.

*(9) “Gut flora metabolism of phosphatidylcholine promotes cardiovascular disease.” Nature 472: 57-63, 2011.

*(10) 「腸内細菌叢の消化管疾患への関与」モダンメ ディア 2014 ; 60 : 325−331.

*(11) 「腸内細菌と過敏性腸症候群」日消誌 2015 ; 112 : 1956−1965.

*(12) 「自己免疫疾患と腸内細菌」第20回腸内細菌学会シンポジウム2-1

*(13) 「特集 腸内細菌叢からみた経腸栄養療法・腸内細菌叢とdysbiosis」日本静脈経腸栄養学会誌35(5):1099-1104:2018

*(14) The microbiome in infectious disease and inflammation. Annu. Rev. Immunol., 30, 759-795 (2012)

*(15)「腸機能に対する食物繊維の物理化学的作用とPrebiotics作用」日本食物繊維学会誌7(2):65-70(2003)

*(16)「食物繊維の定義・用語・分類の探索と日本からの新たな提案」日本食物繊維学会誌10(1):11-24(2006)

*(17) ”Dietary modulation of the human colonic microbiota: introducing the concept of prebiotics.” J Nutr 125:1401-1412

*(18)「水溶性食物繊維の抗体産生調整機能」日本食物繊維研究会誌5(1):1-9(2001)

*(19)”Effect of dietary fiber on intestinal micro­flora and health. Dietary Fiber in Health and Disease" Eagan Press,257-266 (1995) 

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